10月末日の晩は、キリスト教でいう冥府の扉が開いてしまう晩だそうで。
そこから溢れ出した亡者たちが、
町へ戻って来ないよう、人へと取り憑いてしまわぬようにと、
人々は亡者を追い返すべく、魔物の扮装をし、
夜通し起きててわいわいと騒ぐのだとか。
日本にも、昔むかしの平安の時代に“庚申待ち”というのがあって、
六十日に一度巡り来る“かのえさる”の日には、
眠ってはならぬという謂れがあった。
道教の教えによれば、
人の腹の中には“三尸虫(さんしちゅう)”というのがいて、
自分が巣くっている人間の行いをじっと見つめており、
庚申の晩になると人間が眠ったのを見計らい、
天へと昇って天帝様へその人間の行状を逐一報告してしまう。
特に悪い行いは事細かに告げ口する虫だそうなので、
人々はその三尸虫が体から出て行けぬよう、
眠らずにいてその晩を潰してしまう…というしきたりがあったそうで。
そこで、人々はその晩は三尸虫の脱出を阻むための夜更かしをした。
ところで、ここがただの夜更かしとは違うところで、
教えにのっとったことなだけに、この晩に男女の合歓があってはならぬ。
その晩に受胎した子は、
盗賊になるか、病弱に生まれて長生き出来ぬとも言われており。
せいぜいどんちゃん騒ぎをするしかなかったそうだけれど。
「…それって、別なお話ン中で持ち出してなかったか?」
俺が もちっと年嵩でさ、凄んげぇカッコいい陰陽師で。
ルイが蜥蜴の蟲妖とかいうのを束ねる総帥で…って、
判った判った、ややこしい引用を持ち出すなと言いたいんでしょ?
ちゃんとお話を進めるから、さぁさ持ち場へ戻ったり戻ったり。
◇◇◇
一見した見映えは、どこのチャイドルでしょうかというほどに、
軽やかな金髪は生来のもので、
金茶の瞳も睫毛も自己主張のくっきりした、そりゃあ愛らしいお顔と、
腕も脚もすんなりした、
何を着せてもいや映える、そりゃあ伸びやかな肢体という、
文句なしに天使のような風貌の坊やだってのに。
“中身は真逆の悪魔様だもんな。”
それも、世間様が言うところの、
ちょこっと我儘な小悪魔どころの話じゃあない。
気まぐれでお天気屋さんでというところは同じながら、
へその曲げようや拗ねようの、度合いや方向性が凄まじく、
そもそもの個性のレベルからして、あまりにも桁外れな坊やだったりし。
『うわぁ、おねえさん ありがと〜〜vv』
ご褒美よと甘いスィーツでも差し出せば、
その場ではケーキも負けそな甘い甘い満面の笑みで受け取るものの、
そのまま素通りで連れの手へ渡されるのがお約束。
『何でまた、子供は全部甘党だと思うかね。』
そりゃあま、確率から言やそっちのほうが高いからよ、
まず外れやしなかろって思っちまうのは判らんでもないが。
サッチや美咲はもう随分な付き合いになんのによ、
そろそろ俺の好みくらい覚えてもいいと思わね?…なんて。
泥門署の婦警さんたちを、
下の名前やニックネームで呼び捨てる小学生の方が、余程のこと、
“問題があるんじゃ無かろうか。”
とはいえ、葉柱にしてみりゃ今更な話だし。
妖一本人にしてみても、
こんな言いようをしはするが、
悪気あってのことじゃなかろと、ちゃんと判っているから。
いちいち目くじら立てたりまではしない
……って
それもそれで子供らしいとは言えないのだけれど?(う〜ん)
そんな妖一坊ちゃんが、甘いの苦手な小悪魔様が、
どういう風の吹き回しだか、
『今日はカボチャのパイを作るぞっ!』
そんなことをば言い出した。
そういや世間はハロウィンとやらの当日を控えてもいて、
だが、信仰心あってのものじゃあないからか。
せいぜい可愛らしい小物にきゃあきゃあ言ってたり、
遊園地のパレードや、様々な企画に乗っかって騒いだりを、
当日前には もはや堪能しきっていての、
もはや“終わったこと”扱いにしている節さえあるくらい。
『カボチャって…どっかで“どっきりパーティー”でもすんのか?』
甘いと思わせといて、実はハバネロとうがらしを仕込んだものを作るとか。
そうなら何とか合点も行くと、そんな言いようをしたお兄さんへ、
しっかり“向こう脛 蹴飛ばしの刑”を敢行して、さて。
「えっと…もうちょっとかな?」
厨房を借りるのは最後にということで、
まずは…いつぞやカレーを作ったリビングの予備室にあるキッチンにて。
コンロにかけられてあるのは小さめの蒸し器で、
ほのかにただようは甘い豊饒の香り。
いかにも砂糖が利いてますというだだ甘いものが苦手なだけで、
例えば 煮物なぞはむしろ好物な坊や。
そういや今年も、月見の晩には里芋の煮っころがしを作って持って来てくれて。
ぬるぬるし過ぎず、さりとて堅くなくという絶妙な仕上がりは、
年々腕を上げてることを示してもおり。
「竹串を刺して確かめましょう、か。」
えっとぉと、キョロキョロし始める小さなシェフ殿へ、
「…ほれ。」
「お、サンキュvv」
火が通ったかを確かめるための竹串、
引き出しをあちこち開ける前に、差し出して差し上げる助手の葉柱だったりし。
そもそも、
パイと言ってもパイシートを使う簡単なのだからと言ったので、
母上が許可を出して下さったという代物。
よって、調理と呼べるのは、
中に入れるフィリングとなる、カボチャを煮るところくらいのもの。
此処へとリンゴや栗も入れるとかいう凝ったものでもないようだってのに、
“既に鍋を4つとピューラーを3つ、
お玉が6つを、使われちゃ洗っているんだが。”
堅いカボチャを適当な大きさに切り分けたのは葉柱で、
よって、包丁は1本しか使っちゃあいないが。
それ以外は…相変わらずな坊っちゃんであるらしい。
蒸し上がるのを待ってる間にと、
砂糖や生クリーム、バターを計ったのだが。
それらへも、計量カップやスプーンを不公平なくの3つずつ使ったし、
玉子2つから卵黄を分けるのに、
ボウルを4つも使って見せたのが、
なかなかの妙技だったと…開き直りなさんな総長さん。(笑)
“他じゃあ大人もビックリの器用な子なんだがなぁ。”
ですよねぇ。
PCのプログラムなんてジャンルでは、専門家はだしの知識やテクを知ってるし、
いろいろなコードをただ暗記しているってだけじゃあない。
ハードの方面でも、あれとこれとは実は互換性があるから、
こう繋いでしまえばこんなのに使える…とかいう、
鬼のような裏技も山ほど駆使できる、メカ坊やでもあり。
共同アンテナ使ってるマンションや共同ビルなんなら、
AV入力コネクタにこっちから出力ブースを繋ぐと、
『ほれ、全館のテレビへ同じ映像送れるぞ。』
なんてことを易々とやってのけ。
ビルを管理していた法人の理事長が、
キャバクラで破廉恥プレイかもしてた盗み撮り映像を、
延々と流してやった末に、依願退職へ追いやったことまである恐ろしさ。
……まま、そのおじさんは、
表向きには偉そうなことばっか言ってる人徳者の振りをしながら、
強引な取り立てでも有名な、闇金融会社のドンだったらしいのだけれど。
「えっと、次は…。」
カボチャは火が通ったら実をつぶし、
砂糖を混ぜつつ鍋にかけ、掻き混ぜて水気を飛ばします。
それから、バターと生クリーム、卵黄に、
「シナモン、シナモンどこ行ったっ!」
「此処だ、此処。」
パイ型にパイシートを隙間なく敷き、
膨張しないよう、フォークでぷつぷつ穴を開けます。
「突き通っていいのかな。」
「さてなぁ。」
層んなってるとっからの空気抜きなら、
向こうまで通っちまったら意味ねぇんじゃねぇの?
「あ・そっか。ルイ賢い〜〜vv」
「ありがとよ。」
カボチャのフィリングを流し込み、
もう一枚のシートをかぶせて蓋とします。
「リンゴのパイみたいな網目にしちゃいけないのかな?」
「ああ、あの格子状になってるやつな。」
カボチャを形が残って無いほど潰したから、それだとあふれ出てくんじゃね?
どうだろ…初めてなんだし、やっぱ冒険は諦めるか、なんて。
日頃の彼を知り尽くしていればこそ、
「〜〜〜っ☆」
今なんて仰せですか? と。
ついつい大きく後ずさりするも、
視線では二度見してしまうようなお言いようまで聞けたりしつつ。
…………………… チ〜ン☆
「お、焼けた焼けた。いい匂いしてんじゃんvv」
「そうだな。」
「これなら、セナにも負けちゃあないぜ。」
“…………………あ、やっぱり。”
どうやらやはり、小さなライバル心から起きた“気まぐれ”だったらしくって。
粉だらけになりつつ、大好きな進さんにと、
たまきさんとお母さんと一緒になって焼いたのぉvvと、
あんまり嬉しそうに話していたのが、
微妙にちょみっとうらやましかった坊やだったらしくって。
『う、うらやましいなんて。何だよ、それ。』
そんなじゃねぇもん。
料理は俺の方が先輩なんだから、
こっちは知らねぇじゃ済まねぇと思っただけで…。//////
そんな言って譲らぬ可愛い子ちゃんが、
地獄からくる亡者たちに攫われないように。
カボチャのパイ食べて頑張らねばね、お兄さんvv
〜Fine〜 09.11.02.
*あああ、間に合いませなんだ…というハロウィン話です。
ぎりぎりまで例の王国のお話とどっちにしようかと迷ったんで、
書き始めるのにまず出遅れてました。
スィーツ男子なんて単語がはやる前から、
ルイさん辺りはケーキとかも結構食べてる人だと思います。
だってお育ちがいいんですものvv(…おい)
めーるふぉーむvv


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